個人事業主の経費に上限はない。同じ売上1,000万円でも、残るのは328万円と108万円
2026年11月5日 / 出典は国税庁・総務省の公表資料と法令(ページ下)
個人事業主の必要経費に、金額や売上に対する割合の上限はなく、所得税法で決まっているのは「業務について生じた費用かどうか」です。ただ、経費の割合は業種で大きく違います。総務省の統計で計算すると、同じ売上1,000万円でも手元に残る営業利益の平均は、専門・技術サービス業で328万円、飲食サービス業で108万円でした。売上に対する経費(仕入を含む)の割合で見ると、個人事業全体の平均は84.4%、業種別では60%台〜90%台です。この記事では、経費がどこまで認められるかを条文で確かめ、統計の数字と売上別の経費の額を順に見ていきます。
個人事業主の経費に上限はある?
所得税法第37条では、事業所得の必要経費を次の2つとしています。
- 売上原価など、その売上を得るために直接かかった費用
- その年の販売費・一般管理費など、業務について生じた費用
この条文にも、国税庁のタックスアンサー No.2210「必要経費の知識」にも、金額や割合の上限は出てきません。
どこまでが経費になる?条文で決まっている線
線が引かれているのは、金額ではなく支出の中身です。No.2210 では、次のものは必要経費にならないとしています。
- 家事関連費(業務の部分を明らかに区分できる場合を除く)
- 生計を一にする親族に払う地代家賃・給与(青色事業専従者給与を除く)
- 所得税・住民税
- 罰金・科料・過料
迷いやすいのは1つ目の家事関連費です。家賃・電気代・スマホ代のように、仕事と私生活の両方に使うものを指します。所得税法第45条と施行令第96条では、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけを必要経費にできるとしています(青色申告の人は、取引の記録などで業務に必要だったと明らかにできる部分)。
つまり「どこまで」の答えは、金額ではなく「業務のための支出か」と「私的な部分と分けられているか」の2つです。仕事と私生活の両方に使うものの割合は、家事按分の割合と根拠メモを作るページで計算できます。
総務省の統計で見る、業種別の経費率
上限はありませんが、同じ業種の平均とは比べられます。使うのは総務省の「個人企業経済調査」で、個人事業主(約40,000企業)を対象にした国の統計です。1企業あたりの年間の売上高と営業利益を業種ごとに出しています。営業利益は、売上高から売上原価(仕入)と営業費を引いた残りです。そこから経費率(売上原価と経費の合計 ÷ 売上)を計算すると、次のとおりでした。
| 業種 | 売上(年) | 営業利益 | 経費率 |
|---|---|---|---|
| 個人事業全体 | 1,399万 | 218万 | 84.4% |
| 不動産業,物品賃貸業 | 807万 | 295万 | 63.5% |
| 学術研究,専門・技術サービス業(士業・デザイン・コンサルなど) | 2,031万 | 666万 | 67.2% |
| 医療,福祉(病院・診療所を除く) | 692万 | 210万 | 69.7% |
| 生活関連サービス業(理美容など) | 497万 | 141万 | 71.5% |
| 運輸業 | 878万 | 241万 | 72.6% |
| 製造業 | 1,096万 | 236万 | 78.5% |
| 建設業 | 1,474万 | 289万 | 80.4% |
| 教育,学習支援業 | 467万 | 85万 | 81.7% |
| 飲食サービス業 | 1,127万 | 122万 | 89.2% |
| 衣料品・その他の小売業 | 1,549万 | 150万 | 90.3% |
| 卸売業 | 3,373万 | 277万 | 91.8% |
売上と営業利益は、総務省「2025年(令和7年)個人企業経済調査 結果の概要」表1−1(2024年1〜12月の数字、消費税込み)を万円に丸めたものです。経費率は、表の営業利益率を100%から引いて出しました。
経費率の差は、主に仕入があるかどうかで生まれます。仕入の多い小売・卸売・飲食は90%前後、仕入の少ない専門サービスや不動産は60%台です。仕入のないフリーランスが比べるなら、全体の84.4%ではなく、近い業種の数字を見るほうが実態に合います。
売上別に計算すると、経費は年にいくらか
上の経費率を、売上の規模ごとの年間の経費の額(売上原価を含む)に直しました。列の見出しは、専門=学術研究,専門・技術サービス業、理美容など=生活関連サービス業、飲食=飲食サービス業です。
| 売上 | 専門 67.2% | 理美容 など 71.5% | 建設 80.4% | 飲食 89.2% |
|---|---|---|---|---|
| 300万 | 202万 | 215万 | 241万 | 268万 |
| 500万 | 336万 | 358万 | 402万 | 446万 |
| 1,000万 | 672万 | 715万 | 804万 | 892万 |
同じ売上1,000万円でも、手元に残る営業利益の平均は、専門・技術サービスで328万円、飲食で108万円です。経費率は業種で大きく変わるので、ほかの業種の数字や「経費は売上の何割まで」という一律の目安と比べても、自分の経費率が高いのか低いのかは分かりません。
自分の経費率が同じ業種の平均の何倍かは、経費率と交際費の割合を同業の平均と比べるページで計算できます(無料・登録なし、入力した数字は送信しません)。
平均より高いときにしておくこと
平均は上限ではないので、平均を超えたから経費にできないわけではありません。売上が少ない年は、家賃のように毎月決まって出ていく経費の割合が上がるので、経費率も高くなります。
税務調査では、選ばれたあとに個々の経費について「何のために使ったか」を聞かれることがあります(税務調査でAIは何をしているのか?)。平均から離れているほど、金額の大きい科目から順に、1件ずつ答えられるようにしておく意味は大きくなります。答えの材料になるのは、帳簿の摘要(日付・相手・目的)と、残しておいた領収書です。
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出典
- 所得税法 第37条(必要経費)・第45条(家事関連費等の必要経費不算入等)(e-Gov 法令検索)
- 所得税法施行令 第96条(家事関連費)(e-Gov 法令検索)
- 国税庁 タックスアンサー No.2210「必要経費の知識」(令和8年4月1日現在法令等)
- 総務省「2025年(令和7年)個人企業経済調査 結果の概要」表1−1(令和8年3月2日)